東京ドームに「September」が流れると球場全体が熱狂に沸き、レフトスタンドには独特の緊張感が流れる――シーズン終盤になると毎年のように繰り広げられていたそんな場面を、私たちが観ることはもうありません。
2019年9月25日、巨人最強の捕手・阿部慎之助選手の引退会見が行われました。
習志野高で父とクリーンナップを組んだ掛布雅之氏に憧れ、「僕も掛布さんのようにプロ野球選手になるんだ!」と目を輝かせた阿部少年は中央大を卒業し、2000年ドラフト1位で巨人へ入団。
それから19年の月日が流れ、阿部選手も40歳となりました。近年は故障により捕手から一塁手へコンバートされ、代打での出場を目にする度に、ファンは引退がそう遠くない事を予感していました。
今回はそんな阿部選手がプロ野球界に残した輝かしい記録と軌跡を振り返り、引退となった経緯もご紹介します。
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阿部慎之助選手の通算打撃成績
ルーキーイヤーに捕手として開幕スタメンを勝ち取った阿部慎之助選手は、新人捕手としてはNPB史上2人目となる二桁本塁打を記録します。そんな阿部選手と言えば豪快な本塁打。
2019年には捕手としてNPB史上3人目、巨人の捕手としては初の400本塁打を達成しました。また、捕手という厳しいポジションにありながら、通算本塁打はNPB史上18位を記録。上位には各球団の歴代4番打者が並びます。
1位 王貞治 868本
2位 野村克也 657本
3位 門田博光 567本
4位 山本浩二 536本
5位 清原和博 525本
6位 落合博満 510本
7位 張本勲 504本
衣笠祥雄 504本
9位 大杉勝男 486本
10位 金本知憲 476本
11位 田淵幸一 474本
12位 土井正博 465本
13位 ローズ 464本
14位 長嶋茂雄 444本
15位 秋山幸二 437本
16位 中村剛也 415本
17位 小久保裕紀 413本
18位 阿部慎之助 406本
19位 中村紀洋 404本
20位 山崎武司 403本
2019年シーズンで現役選手は阿部選手と中村剛也選手のみ。
また2014年には、捕手として5人目となる1000打点、4人目となる2000本安打を達成。捕手としての通算打撃成績を比較しました。
野村克也
2901安打 657本塁打 1988打点
阿部慎之助
2132安打 406本塁打 1285打点
谷繁元信
2108安打 229本塁打 1040打点
古田敦也
2097安打 217本塁打 1009打点
田淵幸一
1532安打 474本塁打 1135打点
歴代捕手の中で通算安打数・通算打点は2位、通算本塁打は3位を記録。セ・リーグ最高OPSを2度も記録しています。
そんな阿部選手の打撃フォームは、インパクトの瞬間に腰をスイングとは逆方向にひねるのが特徴。腰に負担がかかりますが、身体を開かせずに球を長くみることができ、より引き付けて打つことができます。
そして左ひじを身体から離さず回り、インパクトの瞬間に左手で押し込むように打つことで力を伝え、インコースの球も本塁打にしてしまいます。
実は坂本勇人選手を稀代のインコース打ちの名手に成長させたのも、阿部選手との自主トレ時のアドバイスがきっかけ。また、巨人で20年もの間スコアラーを務めた三井康浩氏は、ボールをアジャストする能力に関しては、松井秀喜氏・高橋由伸氏より上なのではないかと語ります。
阿部慎之助選手の通算守備記録
とかく打撃成績が取り沙汰されることの多い阿部慎之助選手ですが、捕手としての能力も多くの投手の信頼を集めていました。
強肩とスローイングの正確さは高校時代からトップクラス。しかし捕手として、特にインサイドワークを疑問視され、ドラフト時は野手としての獲得を目指す球団も多かったと聞きます。
そんな状況の中阿部選手は、あくまでも正捕手としての起用を考えてくれた巨人に感謝し、入団後は捕球技術・リードにも磨きをかけます。
そして2006年・2010年にはリーグ最高の盗塁阻止率、現役時代に7度のリーグ最高捕殺数をあげました。また、捕手として連続守備機会無失策のNPB記録も保持しています。
※シーズン最高盗塁阻止率は年間100試合以上出場した年のみ
阿部慎之助
通算.348・シーズン最高.443
山倉和博
通算.341・シーズン最高.425
村田真一
通算.267・シーズン最高.346
小林誠司
通算.375・シーズン最高.380
捕手は「第2の監督」とも呼ばれます。それは投手をリードし、試合の流れを作るという大きな役割を、捕手が担っているからです。
打席に入った打者の動きや過去のデータから狙いを読み、その日の投手のコンディションや心理をくみとり、時に最適なタイミングで声をかける。捕手として大切な、「打者への目配り・投手や打者への気配り・投手への思いやり」を常に行っていたからこそ投手の信頼を集め、厳しいボールゾーンでの勝負に投手が応じてくれるのです。
そして阿部選手は、打撃の調子が良いときほどリードが冴えわたるのも特徴。また、普段はオーソドックスなリードをする傾向にありますが、短期決戦になると意外性のある大胆なリードを展開します。
その結果、選手としての総合評価指標・WARにおいて、過去に2度も両リーグNo.1の数値を記録しています。
阿部慎之助選手、引退の真相
引退会見では引退の理由を「坂本がキャプテンになり優勝して、僕も肩の荷が下りたんでね。それで決断したこともある」と語った阿部慎之助選手。
阿部選手は以前のインタビューで、野球人生において2つの目標があることを語りました。ひとつは「キャッチャー阿部」として引退したいということ。もうひとつは学生時代の阿部選手のあこがれだった元韓国代表捕手のチョ・インソン氏が、42歳まで現役を続けていたことから、自分もその年になるまでは現役を続けたいということでした。
しかし自身の身体の限界を悟った阿部選手は、優勝翌日の2019年9月22日、神宮球場での試合前に監督室へ向かい、来年で引退する意向を原辰徳監督に伝えました。
しかし、その場で聞いた原監督の想いは阿部選手の思惑とは少し違ったものでした。それは阿部選手の未来や巨人の未来を考える上で、「阿部選手がいない巨人を強くしないと始まらない」という内容でした。この考えは阿部選手の想いをはるかに超えていたと語っています。
来年も現役を続けるという想いの中、葛藤もあったことでしょう。しかし原監督の深い想いを知ることで、阿部選手の考えも確実に変わっていきます。そして阿部選手は、本年度での引退を、その場で決意したそうです。
巨人最強の捕手・阿部慎之助選手と巨人の未来
2019年11月23日にジャイアンツファンフェスタで行われた引退セレモニーでは、掛布雅之氏をはじめ、矢野謙次氏・高橋由伸氏・松井秀喜氏からメッセージが贈られました。
その時の高橋由伸氏の言葉にもありましたが、2019年はじめには上原浩治選手も引退。90年代半ばから長く共に強い巨人を作ってきた選手がすべて引退することになり、ひとつの時代の終わりを感じるセレモニーとなりました。
阿部慎之助選手の最後の挨拶は、自身のヒーローインタビューで繰り返し叫ばれた「最高です!」。本当に最高の野球人生を締めくくられたことと思います。
そして阿部選手の次なる仕事、巨人二軍監督としての仕事はもう始まっています。いつか鍛え上げた選手が一軍のヒーローインタビューで「最高です!」を連発する日を、そしてその姿をコーチや監督となった阿部選手がベンチ内で見守っていることを、楽しみにしています。
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